#4「KISSから始めた」 - KISSのヤングミュージックショウ〜1977年
KISS - Detroit Rock City - Tokyo 1977
よく洋楽を聴かない人というのは、洋楽ばかり聴いているような人に「なんで言葉の分からないのに聴くの?」という質問をするものだ。私も中学生の頃はこれとまったく同じ疑問を持っていた。
家では5つ上の姉が、ビートルズ、シカゴ、サンタナ、スージー・クワトロ、ミシェル・ポルナレフ、シルヴィー・バルタン、ギルバート・オサリバンといったアーティストの曲をよくカセットテープで聴いていたが、それらの外国語の歌の良さが自分にはまったく理解できなかった。
何を言っているのか分からない歌。それがその頃の私にとっての洋楽だったが、しばらくすると、日本には姉のように洋楽が好きな人がたくさんいる、ということ。また、ビートルズというグループの曲にたくさんの日本人が熱狂していた、ということ。そういった事実を知ることになった。
そういった事実を知ると、私はむしょうに「自分も洋楽が分かるようになりたい。」と思うようになった。
私は、手始めに、そう耳慣らしに、どれかひとつのグループを決めて、そのグループの歌ばかりを聴いてみようと思った。
そんな想いから、洋楽の勉強という意味で最初に聴き始めたグループがKISSだった。
当時、中学生だった自分のような男子には、あの歌舞伎の隈取りのようなメイクもカッコよく思えたし、なんとなく分かりやすそうなグループ、楽しそうなグループに思えたのだろう。
別にその当時活躍していたクイーンでもエアロスミスでもよかったのだが、たまたま私はKISSを選んだというわけだ。
初めFM雑誌の記事か何かでKISSの写真を見た時はやっぱり「怖い」「気持ち悪い」というイメージが大きかった。とにかく顔(メイク)が怖かったし、胸毛ももじゃもじゃとしてて暴力的なイメージがあった。だから、そんな人たちの音楽を聴くことには、自分なりにけっこう勇気のいる決断だった。
なぜなら、まだまだ当時の日本には「ロック・イコール・不良」のイメージは残っていたからだ。
しかし、今KISSの音楽を聴くと案外整った音作りに聴こえるものだが、当時(1977年頃)初めて聴いたKISSの音楽は、私の耳には、とてつもなく「うるさい」「めちゃくちゃな」音楽にしか聞こえなかった。
日本の歌謡曲しか聞いたことのなかった耳に、あの音楽はうるさ過ぎる音楽に聞こえて当然だろう。
それにリード・ヴォーカルのポール・スタンレーのあの声にも驚いた。
あんな声、発声で歌を歌う日本人は当時いなかった。
とにかく驚いた、というか不思議に感じたKISSの音楽だったが、その後私は何度も何度もKISSの歌を聴くうちに不思議なことに耳が慣れてくるのを感じた。
そうなってくると、また不思議なことに、音の一つ一つ、楽器の一つ一つの音が聴こえてくるようになってくる。
やがて、その音とリズムが快感となってゆき、今度は何度も何度も聴きたくなってくるようになった。
この頃には、もちろんもうKISSの歌が耳にうるさく感じなくなっていた。ポールの声もそうだ。
この、初め「うるさいだけの音楽」が「快感」になってゆく過程、感覚というのは、この後も私はロックという音楽を聴いてきた中で何度か味わってゆくことになる。
しかし、この感覚というのはなぜか洋楽、特にロックでしか味わうことのない感覚で、今だに私は他の音楽ジャンルではこういった感覚というのはないのだ。
こうして、すっかりKISSのファンになってしまった私にとって、ある日最高のテレビ番組のプレゼントが届いた。忘れもしない1977年4月の初来日の武道館公演の様子を放映したNHKの「ヤング・ミュージック・ショウ」。
当時、ビデオレコーダーも世に出ていなかった時代だ。一度のチャンスに賭けて、時刻通りににテレビの前に座り、そして私は観た。
もちろんインターネットもYouTubeも無い時代だ。写真でしか見たことのなかったKISSの初めて見る動く映像だった。
その時おそらく15歳だった私には、ものすごい衝撃と驚きの映像だった。
見たこともない怪物のような男たちが、物凄い音と物凄いステージを展開していた。音楽のコンサートというよりは、物凄いスペクタクルショーという感じだった。
現在でもKISSのライブというのは桁外れに凄いが、洋楽聴き始めの15歳の青年がこのライブを観た時のショックがスゴかったということは、皆さんにも想像できるでしょう。
何しろ口から火は吹くは、流血するは、ギターは燃えるは、花火に爆竹、、、と、とにかくスゴかった。
こうして私は洋楽の桁違いの魅力のとりこになっていきました。
そんなきっかけをつくってくれたのが、私にとってはKISSというグループだった。
今でもKISSは好きだし、移民の貧しい生活から苦労してスーパースターになったジーン・シモンズ(ベース)という人物にも興味があって、彼の本「ミー・インク」も買って読んだ。とても面白い本で、彼が非常に頭のいい実業家であるということもよく分かった。
けっきょくは、ミック・ジャガーやジーン・シモンズのようなクレバーなメンバーのいるグループは強い。生き残っている。
このデビューしてまだ間もないと思われる頃の映像もスゴく面白いですねぇ。
なんか地方のチープな感じの舞台だけど、最後はやっぱり思いっきり爆破させてます。